少し気障な話で恐縮ですが、私のワインとの出会いについて話します。
始めは昭和42年にパリに1ヶ月海外出張した時です。当時は1ドル360円の時代で、海外出張はめずらしく支度金なるものが支給された記憶があります。平日は仕事で慣れない英語とフランス語を使うものですから疲れ果てて、夕飯はホテルの前にあるバスク料理のレストランに良く行きました。英語を少しだけしゃべるママさんと人のよさそうなシェフと年寄りのメイドの3人でやっているレストランで、余り流行っている様子ではありませんでした。安くて美味いものは何かとの私の質問に、ママさんの返事はリバーだと言います。川は食えないとよく考えたら、レバー料理のことでした。メードには前菜・主菜・ワインをフランス語でオーダーします。このレストランではワインは3種類しか無く、ヴァンルージュと言うとボージョレ―をヴァンブランと言うとヴァンドアルザスをメイドが持って来ました。この外にロゼがありましたが私はオーダしたことはありません。従って私にとってワインと言うとボージョレ―とヴァンドアルザスになります。
三菱電機の時は関西の西宮に主として住んでいた関係で灘の酒を飲んでいました。熊本に来てからワインを飲み始め、義兄に城南のあらきと言うワイン屋に連れて行ってもらって買って居たワインがボージョレ―とヴァンドアルザスが中心でした。これなどは我々の味の好みが非常に保守的である事を示す良い例であると思います。
次は私が47歳だった1982年から4年間、シリコンバレーに一回平均1ヶ月間で毎年2・3回行き、その間にカリフォルニァワインで有名なナパ・ソノマを何回も訪問する機会がありました。知人に車で連れて行ってもらったり、バスツァーで行ったり、民宿に泊まったりなどです。カリフォルニァを含めて新世界では、ワインの名前にはヴァラエタルが一番多く使われます。ヴァラエタルとは品種のことで、赤ではカべルネソービニオンとかメルロ、白ではシャルドネなどです。カリフォルニァワインでは、シャルドネが好きでした。日本では滅多に手に入りませんが、ファーニエンテと言う会社のシャルドネが好きでした。カリフォルニアのシャルドネを伏見の酒とすると、同じ品種ですがシャブリやブルゴーニュの白が灘の酒という所でしょうか。特に食前酒としてこれ以上のものは無いと思いました。
熊本に来てワインの世界に入りましたが、始めは赤ワインの味は分かりませんでした。従って当時は白ワインが主で、ヴァンドアルザスのミュスカやゲベルツトラミネルからブルゴーニュ白の代表格であるピュリニーモンラッシェに進みましたが、値段的に毎日飲めるワインでなく廉価なソービニオンブランとかミュスカデも飲むようになりました。もう一つカリフォルニアで憶えたのは1本20ドル以上のワインはSHOULD BE GOODで、進物に持って行くときは必ずその程度のものを買わなければならないと教わりました。
熊本工業大学に移籍して4・5年後には講義もかなり安定し、研究に力点が入りました。研究成果の発表と観光の機会として国際会議があり、大学が補助金を出してくれるのでほとんど毎年一回は海外に行きました。アメリカ3回・インド2回その他フランス・スペインなどに行きました。海外旅行はほとんどが単身旅行でした。私が63才だった1998年にワールドサッカー杯の決勝戦の日にボルドー空港に着きました。空港では0対0でしたが、ホテルのチェックインを済ませ部屋に入ってテレビをつけた時にジタンが最初の1点を入れた所でした。時差ぼけで夜中に目を覚ますと、ホテルの前の大通りを大勢のフランス人がラマルセーズを大声で歌って通るものですから、朝方まで眠れなかったことを記憶しています。
この頃は赤ワインのタンニンにもかなり慣れまして、少し美味さも分かるようになりました。国際会議の発表を済ませた後は、主にジロンド河とガロンヌ河の左岸のワインについて研究する時間がありました。ボルドーワインの特色はブレンドです。赤ワインはカべルネソービニオン・メルロ・カべルネフランなどの品種をブレンドして収穫年度のばらつきを抑え、品質を維持すると言います。下流のオーメドックよりもメルロー種の比率の高いグラーブやぺサックレオニャンが自分の好みに会うとの結論でした。更にメルロー種の比率の高いジロンド河とガロンヌ河の右岸のサンテミリオンやポムロールの赤ワインは、野球の江川さんでなくとも大変興味があるのですが、白のピュリニーモンラッシェと同様に甚だ高価なため、残念ながら今もって十分研究して居りません。正直なところ私の赤ワインの経験は5年程度で、赤ワインに対する味覚は十分に分化されてなく、やっと入口に立った所と言うべきでしょう。
ボルドーではワインの外にチーズ特に山羊のチーズと出会いました。ホテル近辺の教会の庭に毎木曜日に市即ちマルシェが立ちます。ここではチーズの計り売りがあり、ブリ―などを適当量買ってきてホテルの部屋で同じく街のワイン屋で買ってきたワインと一緒に楽しむことが出来ます。とに角山羊のチーズがこんなにおいしいとは知りませんでした。この時幸いにも北海道出身で近辺の農場で働いている日本人学生が山羊のチーズを売りに来ていて、話をすることが出来ました。山羊のチーズでヒラミッドの上が欠けたようなバランセと馬糞のようなクロタンを日本に持って帰れるかとの質問に、保存料が入っていないので駄目だとのことでした。熊本で同種のチーズを買って食べて見ますが、先ず塩分が多くて本物ではないと感じた。
研究も国際会議も65才末で卒業し、その後は講義と卒業研究の指導に専念しています。従って66才の時には多少精神的に余裕がありまして、平成13年67才の時に日本ソムリエ協会の資格取得にチャレンジしました。
小野寺
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